むし歯について5(むし歯の成り立ち、脱灰と再石灰化のバランス、食事の影響)

前回は、食べ物を食べることによって、歯の表面は酸性になって脱灰が生じ、その後、唾液の作用により中性に戻って再石灰化が起こること、食事のたびに、この脱灰と再石灰化が繰り返されることを説明しました。

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今回は、食事や間食がむし歯のなりやすさにどのように影響しているかを説明しようと思います。

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食事や間食とむし歯の関係については、いくつかの側面があります。

例えば、“甘いものばかり食べているとむし歯になる”っていうことが言われていたりしますが、本当でしょうか?

下のグラフは、国別の、一人当たりの砂糖の消費量とむし歯の本数を示したものです。

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砂糖消費量とむし歯の本数

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“甘いものばかり食べているとむし歯になる”、ということが本当であれば、砂糖の消費量の多い国でむし歯の本数が多くなるはずです。

しかし、日本は、他の国に比べて砂糖の消費量は一番少ないのに、むし歯の本数は一番多い結果となっています。

つまり、甘いものを多く食べたからといって、むし歯になりやすくなるというわけではないようです。

ここで示されている、国別の一人当たりのむし歯の本数の違いに何が影響しているかは、また別の機会に説明します。

甘いものを多く食べると、むし歯になりやすくなるわけではないですが、全く無関係というわけではありません。

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下の図は、前回説明しました、食べ物を食べた後の、歯の表面のpHの変化のグラフです。

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ステファンカーブ

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繰り返しになりますが、食べ物を食べた後、歯の表面は酸性になって脱灰が生じ、その後、唾液の作用により中性に戻って再石灰化が起きます。

この現象は、糖分や炭水化物などを含む食べ物がお口の中に入るたびに繰り返されます。

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通常、食べ物がお口の中に入るのは、朝・昼・夜の食事の時と、間食の時です。間食の取り方は個人により差があると思いますが、3時ごろに一度間食を取るとすると、食べ物がお口の中に入る回数は、一日4回です。この場合の、歯の表面のpHの変化をグラフにすると、下の図のようになります。

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1日4食

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食事や間食の後に、脱灰される時間がありますが、それ以外の再石灰の時間のほうがはるかに長いため、むし歯になってしまったり、むし歯が進行してしまうリスクは低いといえます。

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しかし、間食の回数が多いと、下の図のように、脱灰の時間は多くなり、再石灰化の時間は少なくなってしまいます。

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1日7食

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こうなると、歯の表面からミネラル分が溶け出してしまう時間が長くなり、歯がもろくなって歯に穴が開いてむし歯になるリスクは高くなります。

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また、間食の回数だけではなく、間食のとり方もむし歯のなりやすさに関係します。

だらだらと間食をとっていると、歯の表面に糖分が持続的に供給され、その間はずっと脱灰されていることになります。また、飴のように長い時間お口の中にあるもの、キャラメルやビスケットなど、食べた後に歯の表面にくっついて長くとどまるものでも、同様に糖分が長時間供給し続けられますので、脱灰の時間が長く続きます。

この場合の、歯の表面のpHは下の図のようになります。

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間食だらだら

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このように、食事や間食の回数が増えることによって、歯の表面が脱灰される時間が長くなり、また、食べ物がお口の中に存在する時間が長くても、脱灰の時間が長くなり、むし歯になりやすい状態となります。

逆に言えば、間食の回数を減らす、だらだらと間食をとらない、食べた後に食べかすが残らないようにする、といったことに気をつけることで、むし歯のリスクを低くすることができます。

むし歯について4(むし歯の成り立ち、脱灰と再石灰化について)

前回は、歯の表面で起きている、“脱灰”と“再石灰化”について説明しましたが、今回は、もう少し詳しく説明しようと思います。

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前回、“脱灰”はミネラルの“溶け出し”、“再石灰化”はミネラルの“回復”であり、そのバランスにより、脱灰(溶け出し)が多くなるとむし歯になり、再石灰化(回復)が多いとむし歯にはならない、というお話をしました。

 

では、どのような時に脱灰(溶け出し)が起きて、どのような時に再石灰化(回復)が生じているのでしょうか?

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これまで説明しているように、歯の表面にむし歯菌がいて、糖分が存在すると、むし歯菌は糖分から酸を産生して、歯の中のカルシウムやリンなどのミネラル分が歯から溶け出す“脱灰”を引き起こします。

逆に言えば、“むし歯菌”と“糖分”が無ければ、“脱灰”は起こりません。

“むし歯菌”は、歯磨きにより少なくすることはできますが、完全に無くすことは難しいので、基本的に、常に歯の表面にいます。

一方、“糖分”は、食べ物によって供給されるもので、食べることにより歯の表面の“糖分”の量は増加し、食べ物がお口の中から無くなれば、供給される“糖分”の量は減少します。

つまり、食べた直後は、“むし歯菌”と“糖分”の条件が揃っていて、“脱灰”の最盛期の時間帯と言えます。逆に、食べていない時は、“むし歯菌”はいますが、“糖分”は無いので、“脱灰”は起こらない(起きていてもわずか)ということになります。

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むし歯菌がいて、糖分が存在すると、むし歯菌は糖分から酸を産生するので、歯の表面のpH(酸性度)は極端に酸性になります。

食べ物を食べた後の、歯の表面のpHの変化をグラフにすると、図のようになります。

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ステファンカーブ

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通常の状態では、歯の表面は中性のpH7ですが、食べた直後には急速に酸性になります。歯の表面が一定のpHより酸性になると脱灰が始まるという境界のpHを臨界pHといい、一般にはpH5.5から5.7で、図の紫色の帯の部分が臨界pHになります。食べ物を食べた後は、この臨界pHを越えてpHが下がり、臨界pHを越えて酸性になっている間は脱灰が続いていることになります。この状態はいつまでも続くのではなく、歯の周りには唾液が存在し、唾液が酸を洗い流したり、唾液の酸を弱める作用により、時間とともに歯の表面のpHは元の中性に戻っていきます。臨界pHを越えて中性寄りになっている間は、歯の表面では再石灰化が行なわれ、脱灰された部分が修復されます。完全にもとの中性の状態に戻るのには、食べた後から40分かかると言われています。

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このように、食べ物を食べることによって、歯の表面は酸性になって脱灰が生じ、その後、唾液の作用により中性に戻って再石灰化が起こります。食事のたびに、この脱灰と再石灰化が繰り返されています。

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前回も説明したように、この“脱灰”と“再石灰化”のバランスによってむし歯になるかならないか(なりやすいかなりにくいか)が決まります。つまり“脱灰”が“再石灰化”よりも多くなるとむし歯になり、“再石灰化”が多いとむし歯にはならないということです。

次回は、“脱灰”と“再石灰化”のバランスについて説明ようと思います。

むし歯について3(むし歯の成り立ちについて詳しく)

前回は、どうしてむし歯ができるのかについて説明しましたが、今回は、より詳しく、少し科学的に説明したいと思います。

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歯の頭の部分の一番外側は、エナメル質というとても硬いもので覆われています。人の体の中で最も硬い組織です。とても硬いですが、細菌の作り出す酸に長時間さらされると、溶けてしまいます。溶かされて穴になったものが“むし歯”です。

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もう少し詳しく説明していきます。

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当然のことですが、歯はお口の中にあります。通常、お口の中には唾液が存在しますので、歯は常に周りを唾液で囲まれていることになります。

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また、お口の中にはとても多くの細菌が存在します。その数は数千億個もあり、種類は300から700種類くらいいると言われています。その細菌の中には、唾液の中に浮かんでいるもの、舌や粘膜の上に住み着いているものや、歯の表面に住み着いているものなどがあります。このうち、むし歯に関係するのは、歯の表面に住み着いているものです。歯の表面に住み着いている細菌は、それぞれ単独で歯の表面に張り付いているのではなく、プラークという細菌の塊となって、歯の表面にくっついています。

プラークの成分は、8割くらいが水分です。残りの2割は細菌と粘着物質で構成されていて、その中の約3/4が細菌、約1/4が粘着物質です。プラークの中の細菌も数百種類いますが、すべての細菌がむし歯に関係しているのではなく、むし歯に関係しているのは、お口の中の糖分から酸を作り出す細菌です。つまり、すべての細菌が糖分から酸を作り出すのではなく、ある特定の細菌が糖分から酸を作り出します。それらの細菌を、俗に“むし歯菌”と言います。代表的なむし歯菌には、“ミュータンス菌”があります。

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むし歯菌の作り出した酸が歯の表面に作用すると、カルシウムやリンなどのミネラル分が歯から溶け出します。このことを“脱灰(だっかい)”と言います。脱灰が進むと、歯はもろくなっていき、もろくなった部分が崩れると穴になります。この穴がむし歯です。

脱灰は一方通行で進行するばかりなのではなく、溶け出したミネラル分は、条件が整えば歯の中に戻ることができます。これを“再石灰化(さいせっかいか)”と言います。

歯の表面では、この“脱灰”と“再石灰化”が繰り返されています。“脱灰”はミネラルの“溶け出し”、“再石灰化”はミネラルの“回復”です。“溶け出し”と“回復”のバランスが取れているか、“溶け出し”の時間よりも“回復”の時間が多ければ、むし歯にはなりません。しかし、“溶け出し”の時間が“回復”の時間より多ければ、歯の表面の“脱灰”が進行してむし歯になります。

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次回は、この“脱灰”と“再石灰化”について、もう少し詳しく説明します。

 

むし歯について2(どうしてむし歯ができるのか?)

今回は、むし歯がどうしてできるのかについて、少し詳しく説明したいと思います。

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“どうしてむし歯ができるのか?”

このことを考えることには、とても重要な意義があります。

むし歯は、歯の病気の代表的なものですが、当院では、むし歯を“治療”することよりも、“予防”することの方が重要だと考えています。

病気の“予防”を考える上で、その原因、つまり“どうしてむし歯ができるのか?”が分かれば、その原因を取り除くことで、その病気の“予防”に繋げることができます。

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“どうしてむし歯ができるのか?”

専門的な知識の無い方にたずねた時に多く聞かれる回答は、

「食べた後、歯を磨かないから」

「おやつなど、甘いものをたくさん食べているから」

ではないかと思います。

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では、どうして

“食べた後、歯を磨かない”とむし歯になるのでしょう?

どうして

“おやつなど、甘いものをたくさん食べている”とむし歯になるのでしょう?

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“食べた後、歯を磨く”のは、磨いて何をきれいに取り除いているのでしょうか?

これもたずねてみると、“食べかす”と答えられる方が少なくありません。

“食べかす”は、歯にとってどのような悪影響を与えているのでしょうか?

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“甘いものをたくさん食べること”は、歯にとってどのような悪影響を与えているのでしょうか?

甘いものの“食べかす”が歯の周りにこびりついているからでしょうか?

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これらの答えは、むし歯がどのようにしてできるのか、を少し詳しく考えていくと分かってくるかと思います。

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古くから考えられているむし歯が発生する要因として、“細菌”、“糖分”、“歯の質”があります。これらに加えて“時間”も要因の一つとして考えられることもあります。

歯の表面にいる“細菌”が、その周囲にある“糖分”を分解して酸を産生し、その酸により歯が溶かされて穴が開いてしまうということです。同じ条件でも、“歯の質”が強いか弱いかによってむし歯になるかどうかも変わってきます。また、酸に晒される“時間”が長ければむし歯になるリスクは高くなります。

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ですので、むし歯を予防するためには、これらの3つの要素を改善すればよいことになります。つまり、歯の表面にある“細菌”を取り除き、“細菌”への“糖分”の供給を減らし、“歯の質”を強くする、これらのことでむし歯になるリスクを減らすことができます。

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前半にお話した、“食べた後、歯を磨かない”とむし歯になるのは、“食べかす”だけではなく、歯の表面に酸を作る“細菌”が長い時間存在するためであり、特に食べた後は、糖分も多く供給されているので、むし歯のリスクは高くなります。

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また、“甘いものをたくさん食べること”は、その量よりも“時間”が重要で、たくさん食べることは、それだけ長い“時間”、“細菌”に“糖分”が供給され、多くの酸が長時間、歯の表面に作用することになります。

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“どうしてむし歯ができるのか”について、一般に考えられている“歯を磨く”ことと“甘いもの”のことについて、説明しましたが、他にも“歯の質”もむし歯の成り立ちとむし歯の予防には大きく関与しています。

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またの機会に、むし歯の成り立ちやむし歯の予防についても、もう少し詳しく説明したいと思います。

むし歯について01(“むし歯”とCO)

歯の病気の代表的なものの一つに、“むし歯”があります。

今回は“むし歯”について、少し詳しく書いてみます。

 

 

一般的に言われている“むし歯”ですが“虫歯”とも書きます。どうして“虫”なのか語源はわかりませんが、虫に食われたように穴が開くからなのでしょうか、もしくは、かつては虫が原因で穴が開くとも考えられていたこともあるようで、それで“虫”歯なのでしょうか?ここでは“むし歯”と書きます。

 

一般的な言葉は“むし歯”ですが、専門的には“齲蝕(う蝕、うしょく)”と言い、う蝕になった歯を“齲歯(う歯、うし)”と言います。英語では“Dental Caries”、もしくは単に“Caries”、もしくは、“Cavities”や“Tooth decay”とも言います。“Caries”の頭文字をとって、 “C”を略号として使います。

 

むし歯は、その進行度により、C1からC4に分類されますが、さらにCOという分類もあります。C1よりも初期の段階なので“C0(シーゼロ)”のようにも見えますが、“CO(シーオー)”です。Questionable Caries under Observationの略号で、日本語に訳すと“要観察歯”となります。定義としては、「主として視診にてう窩は認められないが、う蝕の初期症状(病変)を疑わしめる所見を有するもの。」(日本学校歯科医会HPより引用)で、つまり、目で見て診査する限りではむし歯の穴は見られないが、表面や歯の溝部分が白くにごっていたり、茶色く変色していたりする状態ということです。この状態は再石灰化(別の機会に詳しく説明します)により、むし歯ではない状態に回復させることができるので、治療の対象ではなく、適切な指導や処置を行ないつつ、経過を観察していきます。“要観察歯”ですが、観察だけしていれば良いのではなく、適切な指導や処置をしないと、C1へと進行してしまうリスクは高いと考えられます。

 

また、学校などの集団検診ではCOの他に“CO-S(シーオーエス)”もしくは“CO(要精検)”という判定もあります。学校などの集団検診では、目で見て診査をしてむし歯の穴が確認できるものが“C”と判定する、という基準があるので、特に歯と歯の間がむし歯になっている場合などは、色の変化などにより、むし歯がある可能性が高そうだとしても、目で見える穴は確認できなければ、COという判定になってしまいます。しかし、先に書いたように、COとはごく初期のむし歯のことであり、治療は必要ないため、次の検診まで放置される可能性があります。そこで、CO-S(CO(要精検))という判定を使って、歯科医院でのX線写真などでの精密検査を受けるよう勧めるようにしたものです。したがって、CO-Sと判定する場合には、明らかに歯と歯の間にむし歯がありそうだけど、穴が見えないからCの判定ができない場合と、もしかしたら治療の必要の無いCOかもしれないけど、Cかもしれないという場合とがあるかと思います。CO-Sの判定があれば必ず歯科受診をしたほうが良いと思います。

 

 

今回は、むし歯の進行度による分類について、特にCOとCO-Sについて書きました。後日、またむし歯について書いてみようと思います。